【第2話】「奇跡と試練」
前回のあらすじ
全力で走ることすらできなかった少年時代。
わき腹を襲う原因不明の激痛。
「強くなりたい」――その想いを胸に社会人となった新保を待っていたのは…
銀世界との出会い
同窓会で再会した親友と、酔った勢いで叫んでいました。
「何か新しいことを始めようぜ!」
その時、私の頭に閃いたのが――
スノーボードでした。

小学生以来となるスキー場。
かつては、ただの冷たい塊にしか見えなかった雪が――
その日は、キラキラと輝く銀世界に見えました。
風を切って滑走する、圧倒的な爽快感。
日常のすべてを忘れさせてくれる、非日常の空間。
私は、生まれて初めて「趣味」と呼べるものに、心の底から夢中になりました。
シーズン券を買い、週末という週末はすべてスキー場へ。
転んで、起きて、また滑る。
朝から晩まで、ただひたすらに滑り続けました。
その繰り返しの中で――
私の体には、静かな、しかし確実な「変化」が起きていたのです。
信じられない瞬間
あるシーズンオフのこと。
奥只見スキー場からの帰り道、私はふと気づきました。
「あれ……?」
「今日、一日中転びまくったのに……」
「体が、どこも痛くない……?」
まさか、と思いました。
半信半疑のまま、自宅から3kmほど離れた秋葉山までジョギング。
息が上がる。
汗が噴き出す。
心臓がドクドクと鳴っている。
でも――
来ない。
あの、長年私を苦しめ続けた、わき腹の痛みが、来ない。
「えっ……?」
「嘘だろ……?」
「なんだ……?俺、全力で動けるじゃん!!」
その瞬間、私の中で何かが弾け飛びました。
まるで、ずっと体にかかっていた呪いが解けたかのように。
涙が溢れました。
嬉しくて、嬉しくて、止まりませんでした。
何十年も抱えていた、あの重い鎖が――
ようやく、ようやく外れたのです。
解放された人生

長年のコンプレックスから解放された私は、まるで別人のようでした。
スケートボードを始め、様々な運動に挑戦。
体の調子が良くなると、不思議と心にも余裕が生まれ、自信が湧いてきました。
体が変われば、心が変わる。
心が変われば、行動が変わり、未来が変わる。
その実感を得た私は、確信しました。
「人間の体には、まだまだ知られていない可能性がある」
「この体の不思議さを、もっと知りたい」
やがて会社を退職。
「これから、何をしようか」
そんな時、ふと――
心の奥底で眠っていた、あの憧れが再び顔を覗かせました。

「そうだ。ブルース・リーやジャッキー・チェンみたいな、本物の武術をやってみよう」
武術との出会い
大きな書店で武術雑誌を眺めていた私の目に、一冊の本が飛び込んできました。
『合気道の科学』
そこには、私が思っていた「気合と根性」の世界とは全く違う――
論理的で科学的な武の世界が広がっていました。
「この人に、会ってみたい」
著者の吉丸先生が浦和でセミナーを開催していると知り、迷わず申し込みました。
初めて体験した武術の世界に、私は完全に心を奪われました。
「これだ……!これが、俺が求めていたものだ!」
それから、月に2回、新潟から浦和まで往復120kmの道のりを走る日々が始まりました。
新たな痛みとの戦い
しかし――
稽古の後、私の体は悲鳴を上げていました。
腰に激痛が走り、足は痺れる。
肩はパンパンに張り、腕は鉛のように重い。
「今日の帰りも、また地獄か……」
せっかく消えたと思った痛みが、今度は全身を襲い始めたのです。
ある休憩中、私が思わずつぶやくと――
隣にいた直弟子の方が先生を連れてきてくれました。
先生は申し訳なさそうに、しかし、はっきりとした口調で告げました。
「新保さん、身体が痛い原因はね――姿勢ですよ」
「……えっ?」
衝撃の真実
「武術で使う体の動きは、普段とは違うんです」
「体を『張った』ように使う。その時に一番大事なのが、姿勢」
「それができていないと、出した力が相手に伝わらず――」
「全部、自分に跳ね返ってきてしまうんですよ」
「特に、腰を据えて、ハラをしっかりさせて、体幹をしなやかに強くする必要がある」
先生はそう言って、正しい姿勢を丁寧に教えてくれました。
孤独な90日間

その日から、私の独り稽古が始まりました。
毎日、鏡の前で、ただひたすらに正しい姿勢を体に刻み込む。
地味な作業でした。
派手な技も、格好いい動きもない。
ただ、立つ。
ただ、姿勢を整える。
「本当に、これで変わるのだろうか」
何度も、心が折れそうになりました。
でも、私には先生の言葉がありました。
「必ず、変わりますよ」
そして――
約90日が過ぎた頃。
奇跡は、静かに訪れました。
再びの奇跡

ある日の稽古後。
いつものように車に乗り込み、サービスエリアに立ち寄りました。
車から降りて、トイレに向かおうとした瞬間――
「あれ……?」
「痛く……ない……?」
腰も、肩も、足も。
あれだけ私を苦しめていた痛みが――
嘘のように、跡形もなく消え去っていたのです。
「やった……!」
「また、乗り越えられた!」
車の中で、私は一人、声を上げて叫びました。
見えてきた答え
スノーボードで、わき腹の痛みが消えた。
武術で、全身の痛みが消えた。
この二つの経験には、共通点がありました。
「体幹」と「バランス」。
体の中心が安定し、正しく使えるようになれば――
痛みは消える。
「そうか……人間の体って、こんなに変われるんだ」
「こんなに、可能性があるんだ」
人間の体の不思議さ、そしてその可能性に魅了された私は――
心に一つの決意を固めます。
「この経験と知識で、痛みで苦しんでいる人を救いたい」
その想いが、私を「治療家」という新たな道へと導いたのです。
でも――
この道は、私が想像していた以上に、険しいものでした。
特に、ある「出来事」が、私を絶望の淵に突き落とすことになるのです。
【次回予告】

鍼灸師となり、ついに夢を叶えた新保。
しかし――
両親の病気。
「ヤブ医者」と罵られる日。
完全に折れた心。
絶望の闇の中で出会った「活法」。
そして、ついに見つけた本当の答えとは――
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💬 コメントありがとうございました
「90日間の独り稽古…地味だけど本物ですね」
「姿勢でそんなに変わるんですね」
「次回、気になりすぎます!」
🎯 今日のポイント
痛みの原因は「姿勢」にあった
スノーボードも、武術も――
共通していたのは「体幹」と「バランス」。
正しい姿勢で体を使えば、痛みは消える。
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